社外取締役座談会

社外取締役座談会

あすか製薬はホールディングス体制のもと、ガバナンスの強化を進めるとともに持続的な成長を実現するため人材育成にも注力しています。
企業文化がどのように進化しているかを知っていただくために、4名の社外取締役による座談会を開催し、あすか製薬の将来を見据えた現在の取り組み・挑戦について語っていただきました。

開催:2024年7月
出席者:吉村 𣳾典、粟林 稔、榎戸 康二、苅田 香苗

社外取締役としての気構え

吉村: 皆さんもご存知のように、日本は超少子高齢化社会に直面しています。2023年の出生率は1.20、出生数に関しても72.7万人と80万人を下回って、今後は70万人を割ることが予測されています。私は少子高齢化の課題を解決するには、女性と子どもたちの未来を築くことが重要であると考えています。当社は「先端の創薬を通じて 人々の健康と明日の社会に貢献する」という経営理念のもと、国民の生活の質の向上やヘルスケア産業の創出を通じて、女性のライフステージに適した健康のサポートを行っています。社外取締役の立場から、当社が女性医学のフラッグシップカンパニーとして躍進するため、医学者として包括的にサポートしていくことが私の責務であると感じています。

粟林: 私が当社に貢献できる分野は、海外での事業活動の展開やコンサルティング会社で培った新規事業の企画・立ち上げです。これまで創薬や医薬品・医療分野に関しては縁がなかったこともあり、消費者の目線から提言を行っていきたいと考えています。一方で、新規事業の立案などがあれば積極的に尽力させていただきます。海外新規事業の発掘と導入のノウハウを持つ社外取締役として、情報収集の仕組みづくりのアドバイスを行い、分析や判断をする際にはビジネス面での助言をさせていただくことが私の役割だと考えています。

榎戸: 私も長年、エレクトロニクスメーカーの取締役を務めていたこともあり、製薬業界は専門外ということになりますが、前職では海外勤務が長かったこともあり、現地で培ったグローバルな視点を活かせるのではないかと思っています。上場企業としてのガバナンスの在り方をアップデートしていくことに加え、海外独自のガバナンスおよび事業成長という観点からも助言を行い、私なりに貢献していきたいと思っています。

苅田: 私は医学者としての経験を踏まえて、ダイバーシティ推進を切り口にしながら、今後必要とされる人材の確保や育成への取り組みに対する意見を申し上げていくのが責務だと感じています。なかでも、生え抜きの女性幹部をいかに育成するかが鍵となると思います。出産、育児などのライフイベントで会社を休職する女性がいても、女性社員のキャリアを断絶させないような仕組みづくりが重要です。女性ならではの観点から、社内の女性への働きかけを支援していくとともに、従業員の皆さんがそれぞれの自己実現を果たして、仕事にやりがいを感じられるような環境づくりに意見を述べていきたいと思います。

社外取締役からの視点で当社の印象

吉村: 当社とは社名変更が行われる「帝国臓器製薬株式会社」の時代からかかわっています。「あすか製薬株式会社」になってからは、とりわけ女性のライフステージに着目している点が、競合の製薬企業には見受けられない大きな特徴だと感じています。また、スペシャリティファーマとして、社会に対する役割というのはある程度果たしてきたのではないかとも思っています。女性の健康の包括的な支援に関しては国も推進を後押ししており、ホールディングスになってからも、その点は常々改善され、社会に対して貢献をされているという認識です。

粟林: 私の場合は当社とかかわってから1年が経ちます。つきまして研鑽を積んでいる最中ではありますが、経営陣との会話で経営の中枢に参画する以前の印象よりも強いビジョンを持ってリーダーシップを発揮していると感じられます。今後はさらなる後押しができるよう貢献したいと考えています。

榎戸: 国内の産婦人科領域で大きなシェアを確保している点を高く評価しています。国内のニーズに合致し、女性の活躍を支援する役割を担った領域です。会社がアニマルヘルス事業やメディカル分野等々新規事業を展開していることも評価しています。今後の課題としては、長期的視点から製薬開発の力を拡大できるかという点と国内市場の成長が限定的とみられることから、海外での成長機会をどのように創出するかということだと考えています。

苅田: これまでの会議やブリーフィングで、当社の経営陣がコーポレート・ガバナンスの重要性をしっかり認識し、堅実なガバナンス体制を整えていると感じました。私自身もこれからいろいろと勉強したいと思っています。今後は、海外展開の拡大に伴い、他企業との協働関係を築いていくことを後押ししていきます。

中長期の企業価値向上に向けて

榎戸: 当社は活動している領域が専門的なこともあり、一般的な認知度は上がりにくいものの、最近の株価上昇からみられるように企業評価が高まっていると感じています。なかでもこの1年間は、株主の価値向上について社内で議論が盛んに行われ、このような取り組みから世間の認知度も徐々に広がってきているのかもしれません。株価に関しては短期的に大きな上げ下げがあるより、長期的に価値を上げていくことが大切だと思っています。企業価値を生むのは従業員の皆さんですから、そのためにも一人ひとりのスキルと人間力を向上させる努力を続けるべきと考えています。

吉村: 株価に関しては市場から評価されていない時期には1,000円を切っていましたが、今は約3倍に上昇しています。株価の上昇からも、当社の認知度は非常に高まっていると感じています。企業価値は大幅に上がっていますが、それに伴って新たな課題も見えてきました。

粟林: 海外からの投資家が増えているので、もっと積極的に海外向けの情報発信やIR活動を行うべきだと思います。

苅田: SDGsやサステナビリティの活動は進んではいるものの、情報発信の効果が実感しづらいと感じています。例えば、インフルエンサーなどを起用して情報発信を強化し、現状維持に満足せず、常に改善点を見つけ出して、従業員全員が企業価値を向上していこうというような気概を持って邁進すれば、より浸透すると思います。

人材の多様な考え方

粟林: 社外取締役の立場から意見を申し上げると、中堅クラス以上の有能な人材を積極的に外部から採用するという点は非常に良い部分と感じています。一方、社内の人材の育成という意味では、経営陣と従業員との間で社内ミーティングなど頻繁に行われているようですが、私たちの立場からはよく見えない部分もあります。機会があれば、オブザーバーとして参加して必要な意見があれば共有したいと思っています。

吉村: 私は医療人であることもあり、企業が財務諸表を中心とした金融資本主義にこだわらず、公益資本主義にパラダイムシフトする必要があると考えています。なかでもSDGsやESG 投資、人的資本への健康投資が重要であり、生産性が向上することによって企業価値向上につながるとの認識がまだまだ不足しているように感じます。また、経営陣はどうしても社内に目が向きがちですが、地域社会や働く女性への意識がもっと必要だと思います。

榎戸: 企業の長期的な成長には従業員の成長が不可欠で、人材育成について社長と何度も議論を重ねています。一時的な需要で業績に変動があっても、長期的に見れば従業員の成長こそが会社の躍進につながると思っています。私の海外駐在の経験を振り返っても、企業の特徴は国によって異なるものの、組織の成長は従業員一人ひとりの成長の総和であります。また、会社の経営理念を海外でも丁寧に浸透させるということが、組織のアイデンティティーを保つのに非常に重要だと考えています。浸透を徹底しつつ、会社としての魅力を上げていくことで良い人材を引き寄せるということですね。
一方、国内では真面目で風通しの良い企業風土が感じられます。敢えて、足りない点を申し上げれば、従業員のチャレンジ精神をもっと引き出す仕組みでしょうか。持続的な企業の成長のためには、やはりチャレンジするということが大切です。求められる品質が厳しい業界ですし、全員がそうである必要はありませんが、従業員の一部の人には大きくチャレンジしてもらえる仕組みづくりができてほしいと感じています。

苅田: 社長とジェンダーダイバーシティについて話した際、管理職など重要なポジションを目指そうとする女性が必ずしも多くないという課題を伺いました。男性と同様、女性も能力に応じて登用し、風通しの良い職場環境を整えていきたいと思っています。また、組織にとってネガティブな情報も間をおかずに上層部へ伝わるような透明性の高い職場になれば、女性のジェンダーダイバーシティも浸透するのではと思っています。

取締役会の実効性について

吉村: 取締役会の実効性に関しては、まさに今、苅田取締役がおっしゃったように透明性の高い職場環境の整備に尽きるのだと思います。イノベーションの創出、働き方改革へつなげていくためには、女性の活躍を真剣に考えないといけません。現在、取締役や監査役に占める女性の数が増えていますけれども、女性活躍をより推進するためにはリスキリングや組織の流動性などがまだまだ不足しています。例えば他の会社に出向して3年ほど経験を積んで学んできてもらう。当社は医療機関を訪問して医薬品の情報提供を行う活動が中心なので難しい面がありますが、今後を考えるとジョブ型雇用やデジタルツールの導入が求められています。企業の成長や技術革新にとって多様性が必要なのだという議論を取締役会でも重ねていきたいと思います。

粟林: 男女の多様性は進んでいますが、国際性も重要だと考えています。海外事業は限られているものの、多くの株主が海外の投資家であるため、取締役会にはグローバルな視点を持つ人材が必要です。言葉の問題もあり誰でもよいわけではありませんが、海外の株主の視点を反映できる人材を取締役会のなかに増やしていくべきだと思います。

榎戸: 私が取締役として参画した際、顧客の大半が女性であるのに対して女性役員が少ないと感じましたが、苅田取締役の参加などで、今後は改善されるだろうと大いに期待しています。また、海外展開の重要性が高いこともあり、適切なタイミングで外国人を役員に就任させるべきです。また、経営会議は、さまざまな課題について忌憚のない意見を交換できる場にしていきたいと考えています。

苅田: 取締役会では、決議事項を主とした報告が行われていることもあり、経営会議は事前準備の段階から議論を行い問題点の洗い出しを行えればと思っています。多様な人材の採用については、性別にこだわらず、外国籍の方やシニア、障がい者など、多様な経験や考え方を持つ人材の交流を活発化させたいです。このような取り組みでグループの総合力が高まり、組織の価値や生産性が向上すると期待しています。

吉村: 経営会議と取締役会が同じ議題で行われることが多く、取締役会が経営会議の説明に依存していると感じることもあります。経営会議での議題提案がもっと活発になることで、多様な意見が取り入れられ議論が深まるでしょう。

指名・報酬委員会について

吉村: 指名・報酬委員会の委員長を務めています。諮問委員会における議題として、次世代に向けたサクセッションプランを取り上げたことは重要だと思います。社外取締役や社内取締役を決める際に、現状認識や抱負、従業員へのメッセージを聞く機会があると、非常に有意義ではないでしょうか。私は他社の取締役会でも活動していますが、給与体系が明確に示されているのは当社が初めてで非常に透明性が高い企業風土と感心しています。創業者の考えをよく守りつつ、今の経営者が新たにリニューアルしている点を評価しています。

榎戸: 私としてはまだ始まったばかりなので具体的な提案は難しいですが、未来に向けて、指名・報酬委員会で役員候補を事前に「見える化」し、各々の育成について議論できるようになればよいのではないでしょうか。以前、当社が求めるリーダー像について議論したこともあり、その内容をどのように発展させるかはこれからの課題です。

粟林: 私は榎戸取締役とともに、まだ2回しか参加していないのですが、吉村取締役がおっしゃったような議論ができればと思っています。

苅田: 私自身、異色のバックグラウンドを持ちながら声がかかり驚きました。しかしながら、当社が新しい方向へチャレンジしようとしていると感じました。他の女性の取締役が弁護士や経営者である一方、私は学術畑でダイバーシティの推進や公衆衛生の経験があります。経営や会計学を受講するなど私自身も成長できる機会があります。会社側にフィードバックすることも可能であり、とても満足しています。

あすか製薬ホールディングスに期待してほしい部分や強み

吉村: 私が伝えたいのは、多様なステークホルダーが協力して未来を創り出す「共創(コ・イノベーション、コ・クリエーション)」の概念を取り入れられる企業に成長してほしいという期待です。当社が先端の創薬を通じて、日本の人々の健康や社会、特に女性の健康に貢献するフラッグシップカンパニーである以上、世界が注目する「Sexualand Reproductive Health and Rights」にも取り組む必要があります。日本社会で欠けている「Sexual and Reproductive Rights」の概念、自らの生き方を自らが決めることができる社会を創るために、製薬企業として何ができるかを考えてほしいというメッセージです。

粟林: リスクを取らないところにチャンスはありません。コントロール可能な範囲でリスクを積極的に取ることが経営者の役割だと思っていますし、現在の経営陣はその素質があり、リーダーシップも優れています。過去、新規事業の企画に携わった経験から、社外取締役への説得が困難だったことが多かったと感じています。しかしながら、私は前向きな姿勢で経営陣をサポートし、肝心なところは押さえて、後押しする社外取締役でありたいと考えています。

榎戸: 当社は社会的に意義のある分野で活動しており、成長の余地が大いにあると期待しています。女性の活躍やアニマルウェルフェアの推進に注力し、社会的トレンドを先取りする会社だと考えています。また、株主や機関投資家にとって重要な人材育成にも力を入れており、働きがいのある会社としてさらに魅力を発信していきたいですね。

苅田: 皆さんがおっしゃっていたことに加えて、当社は各グループの機動力を発揮しやすい規模感であり、それが強みの一つです。多様性が進み、さまざまな人材の交流が活発化すると、新しい事業やビジネスモデルを考える際に、機動性が高く市場の変化へ対応できる会社になると信じています。

 

以上

  • 統合報告書「社外取締役座談会」もあわせてご覧ください。

統合報告書