対談:女性医療の重要性と社会課題への対応

開催:2025年8月
出席者:(左から)山口 惣大、森 麻衣子、苅田 香苗、加藤 聖子
女性の健康を起点に、あすか製薬ホールディングスが挑む社会課題
山口:本日のファシリテーターを務める山口です。女性の健康は、本人の暮らしだけでなく、家庭や職場、そして社会全体に大きな影響を与えます。女性のライフステージごとの変化
は、時に日常生活やキャリアの継続にもかかわる重要なテーマです。あすか製薬ホールディングスは、1920年の創立以来、産婦人科領域の製品を世に送り出してきた歴史があります。女性のライフステージには、体も心も揺れ動く時期が幾度も訪れます。私たちは、どんな時も「支えになりたい」という想いで、医療の力を届け続けてきました。今回は、女性の健康という社会課題について皆さんがどのようにお考えになっているのか、お話しいただけますでしょうか。
森: 人生100年時代といわれるなかで、当社グループは女性の各ライフステージで直面するさまざまな悩みに応えてきました。しかしながら、社会で活躍する女性が高齢化していく
に伴い、新たな健康課題も発生しています。今後はこのようなニーズにも対応できるよう、新しい市場や患者さんに向けた選択肢を探っていくことが重要な課題だと考えています。
苅田: :まず、深刻な点は出産年齢が高くなっていることです。少子化社会のなかで女性の労働力は大変重要ですが、現状では、女性ホルモンにまつわるさまざまな不調を抱えながら
仕事に取り組んでいる方も多く、本来のパフォーマンスを発揮できていないケースが少なくありません。あすか製薬は「産婦人科領域のリーディングカンパニー」と掲げていますので、こうした社会課題に対し、積極的な取り組みを推進していくべきだと考えています。
山口: では、新任の社外取締役として新しい視点から、加藤さんのご意見もいただけますでしょうか。
加藤: 私は2025年6月の株主総会から社外取締役に就任し、現在は製薬業界の仕組みを学びながら、産婦人科医としての経験を活かして意見を述べています。当社グループの製
品は思春期、性成熟期(周産期を含む)の女性の健康に大きく貢献しており、女性のつらい症状を緩和する医薬品は働き盛りの女性にとって大きな助けとなっています。今後は、この優位性をさらに高めると同時に、更年期以降の女性の健康課題にもさらに対応できるよう、トータルヘルスケアの観点で製品開発を進めることが重要だと考えます。加えて、避妊薬や緊急避妊薬については、単なる販売にとどまらず、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の観点から社会課題に取り組む姿勢も必要であることから、私も協力していきたいと思っています。
山口: 創業時代の当社グループはお産向けの薬が中心でしたが、現在では月経困難症や子宮内膜症、子宮筋腫など、女性特有の症状を対象とした多種多様な医薬品が主力となって
います。なかでも、LEP製剤*は国内数量ベースで過半数を当社グループ製品が占めており、社会的責任の大きさを感じています。近年は就業年齢の女性の約7割が働いており、健康課題で我慢されてきた症状のコントロールがますます重要になっています。
森: 女性の社会進出が進み、労働環境の変化や世代交代、さらに情報収集手段の多様化が進んでいます。これまでは、つらい症状があっても我慢する方が多く、日本の女性には
「医師に相談して症状を和らげる」という発想が十分に根づいていませんでした。今でもその傾向は残っていますが、20代・30代の若い世代を中心に意識が大きく変わりつつあります。これまでと同じやり方を続けていては、世代間に大きなずれが生じてしまいます。だからこそ、変化を見据えながら、当社グループとしてどのようなアプローチや情報発信を行うべきかを考え、次の一手を打っていくことが重要だと考えています。
*LEP(Low dose Estrogen Progestin)製剤:月経困難症治療剤
社会課題の解決に挑むあすか製薬ホールディングスの強み
山口: 当社グループの強みは、ホルモン製剤のパイオニアとして長年積み重ねてきた経験にあります。研究開発だけでなく、グループとして展開している検査事業にも広がっていま
す。長い歴史のなかで医薬品を安定的に供給し続けてきたことで、医療関係者や患者さんから厚い信頼をいただいています。こうした強みに甘んじることなく、今後さらに高まる社会の期待に応えるため、新しい道を切り拓き、この領域をリードする存在を目指していきたいと思います。
森: 先ほど社長から「当社グループの創業はお産の薬から始まった」とお話がありましたが、当社グループはお産の薬「アトニン」をはじめ、60年、70年と長きにわたり、日本の医療に欠かせない医薬品を供給し続けてきました。利益だけを追求するのではなく、「国に必要な薬」を絶やさずに安定供給する姿勢が評価されています。私自身、厚生労働省ともかかわる立場にありますが、国や業界から「目立たないが、なくてはならない取り組みをしっかり続けてほしい」という感謝と期待の声をいただいています。こうした堅実な姿勢こそ、当社の信頼につながっていると思います。
山口: ありがとうございます。それでは苅田さん、社外取締役就任からの経験を踏まえ、当社グループならではの特徴についてお聞かせください。
苅田: 就任してから1年が経ち、工場視察や従業員の皆さんとの交流を通じて感じたのは、研究者からMRまで多くの従業員が社会的使命感を持って働いていることです。高品質な
医薬品を安定して届ける文化や、社会的価値の提供を重んじる企業風土が長い歴史のなかにしっかり根づいていると実感しました。さらに、現場感覚を活かし、製薬にとどまらず治療用アプリやセルフケア支援などにもしっかりと取り組んでいます。こうした活動を一層広げ、一人ひとりに寄り添う実践的なアプローチを進めていただきたいと思います。
山口: :今お話しいただいた製薬の安定供給や優れたオペレーションは、まさに当社グループならではの人的資本の強みかと思います。1年間の経験のなかで、特に印象的だったエピ
ソードはありますか。
苅田: 役員の皆さんからは親しみやすく丁寧な説明を受け、異業種出身の私にも専門用語をわかりやすく教えていただきました。皆さん、愛社精神が強く、一丸となっている社風を感
じます。今後、グローバル展開や合併など大きな変化が訪れても、この企業風土を大切にしながら躍進していくことが理想だと思います。
山口: 企業文化や組織風土こそが、社会課題解決につながるという点がよくわかりました。加藤さんは専門家の立場からどう思われますか。
加藤: 当社グループの強みは、女性のライフステージごとのトータルサポートにあります。産婦人科領域はもちろん、甲状腺機能低下症治療剤「チラーヂン」を有しており、これは女性に多い疾患です。また、取締役会でもグローバル展開がたびたび議題に上がっており、ベトナムのHataphar社との連携はその一例です。私は学会活動を通じてアジア各国を訪れていますが、医薬品へのアクセスに課題を感じます。海外では、上層の方々は豊かな暮らしをしていますが、その一方で、厳しい生活を余儀なくされている方も少なくありません。だからこそ、十分に医療が届いていない国々へも「女性ヘルスケア」という考え方を届けていくことは、製薬企業にとって大変意義のある活動だと思っています。
山口: :加藤さんのご指摘のとおり、当社グループが強みとしているのは製薬だけではありません。日本で女性医療のリーディングカンパニーとして培ってきた信頼を基盤に、今後はアジア、そしてグローバルへと、どのように展開していくのかが重要です。市場の可能性や各国の課題解決に向けて、当社グループには大きなポテンシャルがあると考えています。従業員一人ひとりの力もまた大きな強みであり、経済的合理性だけでなく、事業に対する姿勢や人材力を理由に協業先に選んでいただくことが多く、長期的な信頼関係を築けるパートナーとして認められています。
加藤:私は医療関係者向けに、さまざまな説明会や講演の場で依頼を受けて登壇することがあります。その際、多くの企業では自社製品に限定したテーマが求められるケースも少な
くありませんが、当社グループの場合は中立的な立場を尊重してくださるため、講演しやすい環境だと感じています。こうした垣根を越えた姿勢からも、当社グループが「女性のヘルスケアを社会に広げていく」という信念を持って事業を運営されていることをあらためて感じました。
山口: 産婦人科領域は潜在患者さんが多く、基礎的な知識の普及が課題です。当社グループは自社製品に限らず市場全体の活性化を目指し、他社との協業も進めています。
森: 苅田さんが言われた「愛社精神が強い従業員が多い」という点は、私も38年間の在籍経験から実感しています。もともと当社グループは産婦人科を主力とする会社ではありま
せんでしたが、社会環境や製品ラインナップの変化とともに従業員一丸で現在の地位を築いてきました。従業員の誇りが日本や社会への貢献意識につながっていると思います。
女性の健康課題による経済損失軽減への取り組み進捗
山口: 次は具体的な話題で、月経随伴症状など女性の健康課題による経済損失についてです。政府も注視しているテーマですが、こうした社会課題や経済損失をどのように明確に
し、解消していくのかが注目されています。経済産業省の試算を当社で再検証したところ、月経随伴症状に伴う経済損失は4,617億円と算出されました。これには月経困難症や更年期障害など複数の要因が含まれます。一方で、薬剤や検査、治療用アプリなどのサービスも増えており、体調不良をコントロールできる手段は徐々に広がってきています。当社グループとしては、医薬製品の提供や情報発信を通じて経済損失の改善に寄与しており、社内の試算では813億円の軽減につながっています。しかしながら、依然として前述のとおり5,000億円近い損失が残っており、私たちが取り組むべき課題は大きいと考えています。新中期経営計画では「女性の健康支援におけるNo.1企業の実現」を主要目標に掲げ、テーマ別にワーキンググループを組織し、具体的な施策の検討を進めており、2026年には正式な計画として公表できる予定です。
森:社長が話された当社グループの貢献度と、残りの4,617億円に対してどのように取り組むのかという課題は、現場の従業員も強く認識しています。医療関係者向けの医療用医薬
品を患者さんに直接提案することは難しいですが、従業員のなかには、間接的にどのような取り組みが啓発や効果的な活動につながるのかを掘り下げ、実際に手を打っていきたいと考えている人も少なくないのではないかと思います。
苅田: 本レポートでは、経済損失の試算と会社の取り組みがわかりやすく説明されています。社内で試算する仕組みが構築されており、活用を拡大しようとする姿勢は大変評価でき
ます。海外では多くの研究が行われていますが、日本の女性の実態に即した解決策を提供していくことが重要で、本取り組みは現在進行中です。また、製薬だけでなく、女性の健康を管理する治療用アプリなどの連携も進められており、社会的な偏見を取り払うのに役立っているのではないかと思っています。
加藤: 2016年に政府が女性活躍推進法を施行したことによって、女性の健康課題への関心が高まりました。その際、経済損失をどの程度カバーできたかを示す指標は非常に有用だとあらためて感じました。なかでも、働き盛りの女性が体調不良で休むことは、産前産後休暇・育児休業(以下、産休・育休)とは異なり、労働生産性から考えても影響があります。当社グループのLEP製剤(「ドロエチ」「フリウェル」「ジェミーナ」など)は、生理痛などの月経困難症に有効で、閉経前や子宮筋腫を抱える患者さんからも楽になったとよく言われるお薬です。思春期の高校生や大学生も月経困難症によって学業効率に影響を受けることがありますが、LEP製剤をうまく利用できればより効率的に学業に取り組めるのではないかとも考えています。また、医療にたどり着いていない層へのアプローチも課題です。医療関係者向けセミナーや市民公開講座などを通じて、疾患に気づくきっかけを増やすことが大切です。また、男性の理解促進も課題であり、企業内研修や啓発活動を通じて意識を変えていく必要があります。
山口: 大変重要なご指摘です。私は思春期の方を対象とした講演も実施しており、学生の皆さんは知識が豊富で関心も高く、専門的な質問をしてくることもあります。製薬企業として
は、エビデンスに基づく正しい情報を提供することが重要だと考えています。市民公開講座も全国で実施しており、事業のプロモーションとは別に情報提供と啓発活動を行う部署もあります。病気として認識している患者さんだけでなく、日常生活を送る方々に気づきを与える取り組みが今後の課題です。また、男性の理解促進についても重要です。職場や社会全体で男女を含めた認識を改めていく必要があり、製薬企業としてできることは限られますが、やるべき領域だと考えています。
森: 男性中心の職場での啓発活動も効果的だと思います。例えば、鉄鋼や建設業界などで直接お話しすることも有効です。
山口: 確かに、年齢層が高く男性が多い場所では関心が低く、男性は「自分には関係ない」と思っている場合も多いです。こうした層に、どうやって課題意識を持っていただくかも
重要です。
苅田: 私が教鞭をとる大学でも、年配男性の意識変革が課題だと感じています。企業でも管理職候補者の研修に力を入れ、制度設計も性別に関係なく参加できるようにすることが
重要です。女性従業員が目標となるロールモデルの育成など、憧れや励みとなるイメージを持てるような機会づくりも大切です。
山口: 当社の女性従業員の割合は30%を超えましたが、女性管理職比率は13.5%にとどまっており、改善したいと思っています。新入社員は女性が半数以上なので、キャリア志向
の女性従業員を後押しし、チャンスをつかむ環境を整えていきたいですね。社内制度も、フルフレックスや産休・育休、介護休暇などが整備されています。2024年度から導入した「ワークサポート応援金」により、一時的に会社から離れる従業員をサポートする体制も整えています。取得する側も支援する側も、快適に利用できる環境づくりが今後の課題です。
加藤: ダイバーシティ推進は世代交代とともに変化しています。私が所属している九州大学病院の事例では、男性も女性医療関係者向けのきらめきプロジェクトに参加し、育休終了
後に柔軟に働ける仕組みを導入しています。教育だけでなく支援制度を整備することが、男女ともに継続して働ける社会につながります。当社グループの男性育児休業取得率100%(2024年度)は大変高く評価できます。
あすか製薬ホールディングスが目指す「トータルヘルスケアカンパニー」
山口: 当社は医薬品からスタートしましたが、現在では医薬品以外の事業にも力を入れています。これからは「病気になる前に気づく」「病気の進行や再発を防ぐ」といった予防や検
査、治療を含めたトータルサポートがますます重要だと考えています。例えば、グループ会社のあすか製薬メディカルでは、ホルモン検査を通じて早期に自分の健康状態を知るためのサポートを提供しています。加えて、あすか製薬は、「女性のための健康ラボMint+」を運営し、ウェブサイトを通じて信頼できる情報発信を続けていることから、5年目を迎える今も高く評価されています。最近では企業向けに女性特有の疾患や甲状腺に関する情報提供も始め、福利厚生の一環として従業員やその家族、ひいては社会全体のヘルスリテラシー向上に貢献したいと考えています。あらためて、当社がトータルヘルスケアカンパニーを目指すうえでは、皆さんにとって「挑戦」だけでなく「イノベーションの発想」も欠かせないのではないかと思います。そこで、具体的にどのような取り組みを進めているのか、ぜひお聞かせください。
森: 事業面ではフェムテック事業推進室を立ち上げて、アラウンドピルや医療機器など医薬品以外の周辺事業の利益化に取り組んでいます。医薬品の分野はどうしても長期視点が
大切となりますが、フェムテックの分野では市場に出すスピードが必要です。特に若い世代はデジタルで情報を得る傾向が強いので、そうした視点を活かした新しい事業のチャンスも大きいと考えています。さらに、当社グループは男性の育児休業取得率も高く、実際の経験を通じて改善点や新しい発想が生まれる環境があります。そうした点も事業活動に活かせると考えています。
苅田: 私もスピード感は重要であると考えます。医薬品の提供だけでなく、デジタルツールやフェムテックの活用が今後の大きな課題となるでしょう。また、通院不要でのサポート
や予防領域へのサービス拡大は、トータルヘルスケアカンパニーとしての取り組みを進化させるものです。企業の福利厚生プログラムとの連携も有効な施策と考えます。
山口: 予防や通院不要でのサポートには、IT・デジタル領域が重要な役割を果たします。フェムテックも含め、当社グループ単独での取り組みには限界があるため、パートナー企業と
連携し、お互いの強みを活かして迅速に提供できる体制を構築することが不可欠です。そのためには、当社の歴史・信頼・安定供給・新規製品開発といった強みを維持し成長させることが重要です。
加藤: 私の知見に基づいて申し上げますと、当社グループは避妊薬を販売している点に大きな意義があると考えています。新しいプロゲスチン単剤ピルや緊急避妊剤「ノルレボ」の
市販化(OTC化)は、日本社会において極めて大きな影響をもたらすと考えています。製造販売企業としては、服用後のフォロー体制や性教育支援も含めた社会的責任を果たす必要があります。また、フェムテック領域ではエビデンスの取得や市場投入のスピード感が課題であり、事業展開に向けた議論や検討が求められます。
山口: 当社グループが新規に発売したプロゲスチン単剤ピ ルは、海 外ではすでに使用されていますが、国内市場にはこれまでなかった新しいカテゴリーに属します。このような製品の導入は、社内外に向けた大きなメッセージになると思います。また、緊急避妊薬の市販化(OTC化)も進めています。販売時の情報提供や啓発の充実が課題ですが、厚生労働省と連携しながら準備を整えています。
森:女性活躍の推進について、苅田さんや加藤さんの発言から、当社の想定課題は大きく誤っていないと再認識しました。緊急避妊薬の安定供給も、信頼性保証担当として責務を果たしていく必要があります。
苅田: 取締役会でのジェンダー・ダイバーシティ推進は、会社全体の姿勢を示す大事なシンボルになると思います。多様な人材の参画と活用による新たな価値創造が持続的成長に直結すると考えています。
加藤: 社外取締役として学びの機会を得るとともに、現場の声を取締役会に届ける役割を果たしたいと思います。女性支援の経験を活かし、当社の成長に寄与していきます。
山口: 本日は貴重な対談の機会をいただき、ありがとうございました。議論を通じ、自身の考えも整理できて大変有意義でした。今後も、多様な背景を持つ人材が当たり前に意見を発信できる環境を整え、取締役会における活発な議論につなげていきます。
コーポレート・ガバナンスに関する取締役鼎談

当社は、持続的な成長の実現に向けて、ガバナンス体制の強化や海外事業の展開にも注力しています。こうした取り組みを支える企業文化の進化を広くご理解いただくため、3名の取締役による鼎談を実施し、当社の将来を見据えた現在の挑戦と取り組みについて意見を交わしました。
開催:2025年7月
出席者:(左から)丸尾 篤嗣、粟林 稔、榎戸 康二
次世代のリーダーを選任、社長指名・諮問委員会の実効性
粟林: 次期社長の選任にあたって、私は社外取締役という立場から、社内外を問わず幅広い候補者について忖度なく、かつ先入観を持たずに提言を行ってきました。公正性を重視し、慎重な議論を重ねることを心がけた結果、新社長選任では透明性のあるプロセスで実施できたと考えています。
丸尾: グループ指名委員会では「経営トップの選任プロセスはどうあるべきか」といった基本的な視点から議論をスタートしました。そういったプロセスを経て、約1年前から本格的に検討を進めてきました。
榎戸: 現在の中期経営計画が最終フェーズに入るなか、2026年度からの次期中期経営計画に向けて、刷新された体制で臨むことが望ましいという認識を取締役間で共有していました。このような背景もあり、今回のタイミングでの新体制への移行は自然な流れであり、共通理解のもとで進められたと認識しています。選考の過程においても、特定の人物ありきではなく、「あすか製薬ホールディン
グスに必要なリーダー像とは何か」という本質的な議論からスタートし、慎重に候補者を絞り込んできました。
粟林: 私自身は、新社長とは社外取締役に就任する前に面識はありませんでした。しかしながら、取締役会などを通じてかかわるなかで、彼の中・長期的な視野と展望を持った姿勢に触れ、非常に優れたリーダーであると感じました。当社グループの主たるビジネスである製薬業界は、開発や検証に時間を要するため、短期的な視点では成果が見えにくい部分がありますが、新社長は中・長期的な戦略のもと、成長を見据えている点を高く評価しています。
榎戸: 私は新社長とは月に1回ほど、意見交換を行ってきました。特に印象的だったのは、「あすか製薬を次のステージへ進化させる」という強いビジョンを一貫して持ち続けていたことです。研究開発への投資、海外での事業展開の2点に固い意志を持っており、なかでも海外展開への関心は非常に高く、アジアのみならず、欧州市場までを視野に入れており、広い視座を感じました。今後の成長を牽引するリーダーとして適任だと確信しています。
丸尾: 新社長は、取締役として経営に参画して以来、創薬研究や事業開発といった重要な領域を担当してきました。特に、あすか製薬の社長になってからは、国内市場の成長が鈍化するなか、スピード感を持って海外展開に取り組み、実際に成果を上げてきた点などが評価できるポイントです。また、将来的な経営を見据えて、着実に社内外での経験を積み重ねてきた姿勢からも、リーダーとしての自覚と覚悟がうかがえます。
粟林: その海外展開のなかでも、新社長が東南アジアに着目したことは特に注目すべき点です。現在、当社はベトナムにおいて連結子会社を持ち、フィリピンには持分法適用会社を有しています。一般的には、欧米市場が先に注目されがちですが、成長ポテンシャルの高い東南アジアに早くから着目し、経済発展に伴う医薬品需要の拡大を見据えて戦略的に動いたのは、極めて先見性のある判断だったと思います。
榎戸: そうした意味でも、新社長は単なる目先の経営ではなく、次の50年、100年を見据えた持続可能な成長に向けて、海外展開を軸としたビジョンを明確に描いていたと思います。今回の選任は、そのような将来を見据えた視点からも、非常に納得感のあるものだったと捉えています。
取締役会の実効性と改善に向けた取り組み
丸尾: 現在、取締役会の構成は9名のうち4名が社外取締役となっており、議論も非常に活発です。その点において、取締役会の実効性に大きな問題はないと考えています。ただし、当社グループは医療用医薬品を主軸とした公共性・社会性の高い事業を展開しているため、幅広いステークホルダーに対して「健全で透明性のある経営」を示すことがひときわ重要と考えます。今後も、ガバナンスの強化に継続して取り組んでいく必要があります。
榎戸: 確かに、その点は非常に重要ですね。構成の観点から考えても、私が関与し始めた当初に比べて、女性の社外取締役が、2名加わったことで、取締役会の多様性が大きく高まりました。また、粟林さんと私は製薬業界外の出身ですが、経営全般や海外展開に関する知見を提供する立場として、バランスのとれた構成になっていると感じます。しかしながら、製薬の研究開発に関する議論には専門性が求められるため、当初は理解が難しい部分もありました。今後は、このような技術的分野も踏まえつつ、経営的視点からの指摘や判断をさらに強化していきたいと考えています。
粟林: 経営会議では率直な意見交換ができる環境が整っていると感じています。一方で、経営会議で深く議論されたテーマが取締役会で十分に取り上げられない場合もあります。そのためにも、私は重要な案件については、あえて取締役会でもあらためて議論するようにしています。透明性を高めるという面でも、こうした姿勢は必要だと思います。
丸尾: 企業経営における一層の透明性向上を図る観点から、当社ではグループ指名委員会のなかで、機関設計をどうあるべきかという議論も始めています。現在、当社は監査役会設置会社として運営していますが、監査役は取締役会における議決権がないなどの点を踏まえ、監督機能をさらに強化する選択肢として、監査等委員会設置会社への移行も検討しています。また、取締役の任期についても、現行の2年から1年への変更を求める声を投資家の方々からいただいており、さまざまな観点からガバナンスを強化する施策を考えています。
粟林: 取締役の任期を短縮し、1年ごとに株主の皆さまに審議していただくことは、ガバナンスの観点からも望ましいことと考えています。
榎戸: :そのような制度的な議論と並行して、投資家の目線に立った議論も社内に浸透してきており、ここ1年で経営判断における重要な観点として認識が高まっていると実感しています。また、企業として当然の責務であるコンプライアンスを含めた組織全体の健全性についても、継続的にモニタリングを行い、話し合っています。引き続き、企業価値全体の向上につながる議論をより一層深めていきたいと思います。
丸尾: :近年、当社はIR・SR活動を積極的に展開しています。投資家をはじめステークホルダーの皆さまからいただいたご意見は取締役会で共有・展開し、特に有益と判断されるものについては事業戦略や施策に積極的に反映させるよう努めています。取締役会では事業戦略や経営全般にとどまらず、ESG、人的資本の活用、人事制度の在り方といった、昨今、注目されているテーマについても積極的に議論しています。
榎戸: このようなアイデアは、現在策定中の次期中期経営計画においても、非常に重要な柱の一つとして位置づけられる予定です。
丸尾: 取締役会には、議案によっては執行役である本部長も出席し、それぞれのテーマについて説明を行うとともに、質疑応答の機会も設けています。これにより、社外取締役が経営の現場により近い形で議論に参加できており、実効性のあるガバナンスがしっかりと機能していると感じています。
中期経営計画に対する評価と「トータルヘルスケアカンパニー」の実現に向けて
粟林: 当社グループは社内の人材だけでなく、社外からも積極的に多様な人材を取り入れており、またオープンイノベーションの推進にも力を入れています。例えば、ベンチャー企業や海外企業との連携も模索しており、自社だけでの開発にこだわらず、外部パートナーとの連携を経営戦略の一部として位置づけていることは、当社グループの大きな強みの一つです。
榎戸: このような柔軟な姿勢に加え、当社グループは「女性の社会進出を支えるヘルスケア」や「動物との健全なかかわりを促進するアニマルヘルス」など、社会的意義の高いテーマに取り組んでおり、今後の成長が見込まれる市場において、非常に良好なポジショニングを確立していると認識しています。しかしながら、国内市場は人口減少という構造的な課題を抱えていることもあり、中・長期的な
成長には限界があります。したがって、持続的な成長を目指すうえで、海外市場への展開が不可欠であり、同時に自社の開発力のさらなる強化も重要な経営課題と考えます。
丸尾: 現状では当社グループの売上高の約9割を国内の医療用医薬品事業が占めていますが、日本市場は経済の低成長、人口減少、薬価改定など、発展を制約する要因が複数存在しています。加えて、医薬品の研究開発には、コストの増嵩と不確実性リスクが高まっているという課題も伴います。そうしたなかで海外の成長市場を取り込むことは、企業価値を維持・向上させるうえでも極めて重要です。さらに、医療用医薬品だけでなく、アニマルヘルスやデジタル医療機器といった医療周辺領域も、新たな収益の柱として育成していきたいと考えています。
粟林: 海外展開を推進していくうえでは、特に東南アジア市場に関する知見を持つ人材の確保が今後の鍵になると考えています。その際には、実務面での専門性や経験を備えた人材を選任することが大切です。
榎戸: 今後は医薬品にとどまらず、「デジタル治療」など新しい領域が拡大していくと予想されます。また、生成AIなど技術革新のスピードは非常に速く、社内業務の効率化や研究開発のスピード向上、事業領域の拡張にも大きな影響を与える可能性があります。こうした技術をどのように本業と結びつけていくかが、今後の成長を左右するポイントになるでしょう。
丸尾: 当社のような中堅規模の企業にとっては、デジタルヘルスをはじめ、DXやAIといった先端技術分野に強みを持つ外部パートナーとの連携が極めて重要です。一方で、当社グループには「女性の健康」や「アニマルヘルス」といった社会的価値の高い分野での強みがありますので、異分野との融合によって大きなシナジーが生まれると確信しています。こうした連携を通じて、中・長期的な成長の実現を目指していきます。
榎戸: 変化のスピードが非常に速い現代においては、従業員が社内に閉じこもっていると危機感を持ちにくくなります。外部との交流を積極的に行い、他社・他分野のスピード感を体感することが各々の視野拡大や組織の活性化にもつながります。研究や技術を深めることと同時に、外部との接点を増やすことも、今後は一層重要になってくると思います。
丸尾: その観点からも、お二人には今後ぜひ、会議体などを通じて知見を展開していただければと思います。
榎戸: 現在策定中の次期中期経営計画では、単に現状の延長線上で考えるのではなく、まず「10年後にどうありたいか」という大きな将来像を描いたうえで、そこから逆算して「今、何をすべきか」を考えるという、バックキャスティングのアプローチで検討を進めています。新薬や海外展開といったハード面だけでなく、人事制度や挑戦する企業文化の醸成といったソフト面の議論にも力を入れていきます。
粟林: 次期中期経営計画においては、株主への還元や企業の透明性の確保がしっかりと意識されていると感じます。しかしながら、製薬企業としては、株主だけでなく、医療関係者や患者さんなど多様なステークホルダーの存在を常に意識する必要があります。それらのバランスをとった施策と情報発信が求められていると考えています。
丸尾: 次期中期経営計画では、「女性の健康を支援するリーディングカンパニーを目指す」「海外売上高比率を3割に引き上げる」などの目標を掲げ、それを実現するために営業マーケティング・研究開発・海外展開・人事制度といったテーマごとにワーキンググループを立ち上げ、具体的な議論を進めています。秋頃にはサマリーを作成し、2026年度には正式な形で公表できるよう準備を進めています。
粟林: 現状では、株式市場での評価は当社の実力やポテンシャルと比べてやや低いと感じます。特に個人株主層における認知度が十分でない点は、今後、戦略的に取り組むべき課題と考えています。
榎戸: :日本において中堅企業が株式市場で十分な認知を得るには、一定の時間がかかります。過去には、株主価値の向上という視点が重視されてこなかった背景もあります。現在は政策などの後押しもあり、企業価値の向上に向けた議論は着実に浸透しています。社外への情報発信の工夫を重ねることで、当社の魅力も徐々に広く伝わっていくはずです。
丸尾: :最近では、投資家の皆さまから「社外取締役と直接話したい」というリクエストも増えています。今後は、そうした対話の機会もさらに増やすことで、透明性の高い経営とより強固な信頼関係の構築を図っていきます。
ステークホルダーの皆さまへのメッセージ
粟林: 当社は「女性の健康と幸せに貢献する企業」でありたいという明確なビジョンを掲げています。事業の国際展開を積極的に進めるという目標も持っており、実際にその実現に向けた人材の確保も着実に進んでいます。こうした取り組みを通じて、今後の成長に関しては大いにご期待いただけるものと自信を持っています。
榎戸: 企業価値のさらなる向上を目指すという点は、取締役会においても共通認識となっています。現在、市場評価をいかに高めていくかという視点が取締役間でも強く意識されており、次期中期経営計画のなかでも、その意志が明確に伝わるよう反映させていく予定です。当然ながら、そこにはお取引先や今後の拡大が見込まれるパートナー企業、従業員など、さまざまなステークホルダーが含まれており、より広義な意味での企業価値向上への取り組みを推進していきます。
丸尾: まさに、そのとおりです。当社グループが注力している「女性の健康」や「アニマルヘルス」は、社会課題への対応であると同時に、将来の成長ドライバーでもあります。これらの分野に真摯に取り組むことがステークホルダーの皆さまからの信頼獲得につながり、結果として企業価値の向上にも寄与すると考えています。さらに、海外展開についても、今後はより一層注力していく方針です。企業価値や株式価値の向上は、パートナーシップの構築やエクイティファイナンスといった、成長加速のための手段を広げることにもつながります。こうした意味でも、IR活動を含めた対外発信の強化は、今後ますます重要になると認識しています。当社グループは医療用医薬品事業が中核であり、ビジネスモデルとしてBtoCではなく、BtoBが基本となります。そのため、知名度の向上には、他業種と比較してより戦略的な取り組みが求められると考えます。理想的なのは、当社グループが開発した新薬が皆さまのお役に立つことで社会的にも高く評価されて、注目を集めるといったことでしょうか。
粟林: 私の家族も当初はあすか製薬のことを知りませんでしたが、「産婦人科領域を通じて女性の健康と幸せを支える企業」と説明することで、当社の存在意義を理解してもらえました。
榎戸: 私も家族には「産婦人科領域で国内No.1の会社」と伝えています。自信を持ってそう言えるだけの実績やポジションが当社にはあると自負しています。
丸尾: 今後は現在の「女性の健康」という強みに加え、創薬研究や生産といった分野においても、グローバルで通用するような特長を1つでも2つでも増やしていくことがさらなる成長には不可欠だと考えます。当社はまだまだ発展途上の企業であり、あらゆる領域において万能である“デパート型”の経営である必要はありません。“ブティック型”とも言える特定領域に特化し強みを発揮する経営スタイルこそが当社にふさわしい成長モデルではないかと考えています。
グループ指名委員会議長メッセージ:新社長就任に至る選任プロセスと評価について
社外取締役 グループ指名委員会 議長 粟林 稔
※ 2025年度に議長就任、2024年度は委員
次期社長の選任にあたって、私は社外取締役として、社内外を問わず幅広い候補者について、先入観や利害関係にとらわれず提言を行ってきました。選任のプロセスでは、透明性と公正性を最優先に、慎重かつ丁寧に議論を重ねてきました。
当社は「中期経営計画2025」の達成に加え、次期中期経営計画を新たな体制の下で推進することが望ましいと判断しました。そのため、グループ指名委員会では、経営トップ選任プロセスの基本的な枠組みから議論を始め、約1年前から本格的な検討を開始しました。経営状況や社会・事業環境を踏まえ、長期的な視座に立って経営トップに求められる要件や後継者選任の考え方について、綿密に審議してきました。
グループ指名委員会では、多角的に検討するため社内外から候補者を選定し、経営トップに求められるスキル、リーダーシップ、パーソナリティ、経歴・実績などを多面的に評価しました。そのうえで面接を実施し、必要に応じて業績や実務面での照会も行い、最終候補者について協議を重ねました。こうして選定された最終候補者はグループ指名委員会から取締役会へ正式に答申され、取締役会はその答申を踏まえ、経営トップとしての要件や人物像などを総合的に勘案したうえで決議を行いました。その後、株主総会の承認を経て、山口惣大氏の社長就任が決定しました。
私自身、新社長が東南アジアに着目して海外展開を推進する姿を拝見し、その取り組みを通じ、戦略的な視座や中・長期を見据えた判断力、加えて計画を着実に実行する経営姿勢に触れ、非常に優れたリーダーであることを確信しています。