第三者意見

当社グループのサステナビリティへの取り組みに対する第三者意見を紹介します。

 

関 正雄 氏
放送大学 客員教授
社会構想大学院大学 客員教授

企業の社会的責任、マルチステークホルダー・ガバナンスの専門家。
東京大学法学部卒業後、安田火災海上保険(現 損害保険ジャパン株式会社)入社。サステナビリティ推進に携わり、理事・CSR 統括部長を経て、現在は同社カルチャー変革推進部のシニア・アドバイザー。
その間、ISO26000 日本産業界代表エキスパートとして、社会的責任の国際規範づくりに関わり、WBCSDなどグローバルな産業界のイニシアティブにも参画。国内では、SDGs を組み込んだ経団連企業行動憲章改定に関わるなど産業界へのSDGs浸透に尽力。経団連企業行動憲章タスクフォース座長、SDGsステークホルダーミーティング構成員(環境省)ほか、産業界・各省庁の委員等を歴任。2022年3月まで明治大学経営学部特任教授、2022年4月より社会構想大学院大学客員教授、放送大学客員教授を務める。

総評

山口社長のメッセージをはじめ統合報告書に示された、女性の健康への貢献、アニマルヘルスへの貢献をマテリアリティに掲げる価値創造ストーリーは明確である。高い専門性という強みを磨いて、大きな社会的価値を創造する唯一無二のトータルヘルスケアカンパニーを目指してほしい。

高く評価すべき点および今後への期待

統合報告書やサステナビリティ・サイトなどを有機的に関連づけて、価値創造ストーリー、マテリアリティ、KPIと実績、ESGチャート、ESGデータに至るまで、網羅的に、かつ整理された情報開示を行っていること。各媒体の特徴を活かしてわかりやすく伝えており、ステークホルダーが知りたい情報にアクセスしやすい。今年から第三者意見を掲載することとしたことも含め、情報開示への姿勢と意欲を高く評価したい。

統合報告書において、事業の生み出す価値を見える化するために社会的インパクトを金額ベースで試算し公開しているのはよい試みである。投資家もリスク、リターンに加えて企業が生み出す社会的インパクトに強い関心を持つようになってきているし、社外のステークホルダーだけではなく、従業員が自社の存在意義を再認識してモチベーションを向上させることにもつながると考える。今後も継続的にインパクト開示内容を深め、充実を図ってほしい。

2020年に立ち上げたMint⁺や、後にMint⁺ teens、Mint⁺ Femknowlegeへと発展させてきた活動はストーリー性があり、戦略性の高い社会的価値創造の取り組みとして高く評価したい。今後も、女性の心身の健康の増進に加えて、それらを損なう事象やその根本原因などにも関心を広げて、女性の健康をめぐる幅広い社会問題の解決に積極的に関わっていってほしい。 国連による進捗評価でも、SDGsの各目標のなかで特に遅れているのがジェンダー平等であり、SDGsやポストSDGsにおいて、グローバルな重要課題として力を入れていく必要がある。その点、貴社はリプロダクツ・ヘルスや女性の社会参画など、女性の人権増進に大いに貢献している企業である。すでにベトナムでの製薬企業への出資などグローバルビジネスの足掛かりをつくっているので、今後は新興国・途上国をはじめグローバル市場での成長機会を活かすとともに、さらなるSDGsへの貢献に向け国内外で取り組みを進めていってほしい。

さらなる取り組みを求めたい点

日本は国際的に見て、ジェンダーギャップ指数で大きく劣後する。女性の健康への貢献を掲げる企業として女性活躍推進に取り組んでいるものの、女性の管理職比率12.4%はまだまだ低く、役員や職員の女性比率向上も含め女性活躍推進にさらに力を入れる必要がある。その際に、現時点で割合が低いのは改善の大きなオポチュニティがある、と前向きに考えて取り組んでほしい。

製品による社会的価値の創造だけではなく、企業として人権や環境など事業プロセスにおける責任をしっかり果たすことも重要であり、CSR基本方針にそのことを明記するとともにISO26000の枠組みに沿って情報開示していることを評価したい。その観点で今後力を入れていくべきテーマは、ビジネスと人権である。事業に関わるすべての人の人権の尊重、その手段としての国連指導原則に則った人権デュー・ディリジェンス体制構築の取り組みを進めてほしい。社内ハラスメントや女性活躍推進といった社員の人権問題だけでなく、幅広いライツホルダーに着目して、サプライチェーン、バリューチェーンを含む広い範囲での人権リスクを洗い出してマネジメントしていく体制を構築し、情報を開示するとともに継続的に改善していくことが必要になる。

もうひとつの取り組みテーマは、ネイチャー・ポジティブへの貢献である。自然資本への依存と自然資本に与えるインパクトという両方向で自社と自然との関係を分析し、ネイチャー・ポジティブのグローバル目標に向けてどう取り組むか、戦略を構築し目標を設定して取り組み財務情報としての開示を求められるようになっている。すでに製薬業界でもTNFD基準に則った開示の試みが始まっており、ぜひこの観点での取り組みにも着手してほしい。

対話を深め継続的取り組みを

ステークホルダーとのコミュニケーションについては、社外有識者だけではなく、幅広いステークホルダーとの直接の対話の機会をつくって深めていくことをお勧めする。説明会やセミナーといった場だけではなく、双方向コミュニケーションを重視し、ステークホルダーとの建設的な対話を通じて期待・要請に耳を傾け、気づきを得て、それをグループとしてのさらなる価値創造につなげていってほしい。

サステナビリティの取り組みは、終わりのない継続的な改善のプロセスである。国連グローバル・コンパクトの分科会活動などに積極的に参加してほかの署名企業と切磋琢磨し、取り組みの絶えざるレベルアップに努めてほしい。また、それ以外のサステナビリティのイニシアチブにも積極的に参加することをお勧めする。

 

(2024年9月30日掲載)